NPO法人古館まちづくりの会
最近、学校や職場、地域などでよく耳にする「災害」という言葉を聞いて皆さんはどのようなものを想像するでしょうか?多くの人はニュースで流れる映像のような、家が倒れたり、人々が危険な場所から避難する光景を思い浮かべるのではないかと思います。
しかし、一口に災害といっても、地面が振動することで起きる「地震」や火山からマグマが噴き出す「噴火」、建物に火が燃え移ることで起きる「火災」など、それぞれの災害の種類によって発生するメカニズムは大きく異なります。
また、「災害」といえば平成23年(2011)年に発生した東日本大震災を連想する人も少なくありません。東北地方太平洋沖で発生したマグニチュード9.0の地震及びそれに伴う津波の発生による、岩手県における死者・行方不明者は5790人を超えており、私たちの身近な地域でも災害によって命を落とすリスクは十分にあるといえます。
▲東日本大震災による被害
それでは、私たちが災害の被害から身を守るためにはどのような知識が求められるのでしょうか?
その答えの一つとして、災害のメカニズムを知ることが挙げられます。災害発生時、私たちの身の回りにおいて、普段の生活では考えられないような危険があちこちに潜んでいます。命を落とす確率が高い状況下で被害を抑えつつ、自分の身を守るための行動をするためには、災害に対する知識を深め、「危険を回避するためにはどのようにすればいいか」を考える力が必要になってきます。
特に大規模災害では、停電の発生によりテレビやインターネットから情報を集めることが難しくなると予想されます。自分自身はもちろん、身の回りの大切な人々の命を守るためにも災害のメカニズムを一緒に学んでいきましょう。
▲平成29年7月九州北部豪雨における災害対策本部
地震(地震動)とは、地面が大きく振動することで物が落ちたり、建物が崩壊するなどの被害が生まれる災害のことです。地震が起きる前には、「プレート」と呼ばれる固い岩石の層に大きな圧力がかかることで内部が破壊され、ずれが生じます。このずれによって破壊された岩盤の事を「断層(だんそう)」といいます。この断層が生まれたときや、ずれ動いたときに周りに振動が伝わり、私達のところまで揺れが伝わるという仕組みになっています。揺れの元となった断層がある場所を「震源(しんげん)」と呼び、一般的に震源に近ければ近いほど揺れは強くなるといわれています。
▲地震の仕組みを表す図
出典:地震調査研究推進本部
https://www.kids.jishin.go.jp/chosa02/chosa02_04.html
水害とは、台風などの原因による激しい雨によって引き起こされる災害のことです。水害には、大量の雨水によって山にある土砂が凄まじい速さで一気に流れ込んでくる「土砂(どしゃ)災害(さいがい)」や、短い間に激しい雨が降ることで住宅に水が浸入してくる「浸水(しんすい)」、幅が狭い川などで急激な水位上昇が起きる「洪水(こうずい)」などの種類があります。令和元年(2019年)に起きた台風19号による大雨では8万棟以上の住宅において浸水や停電などの被害が発生したという報告もあり、水害の危険性が伺えます。
火事とは意図せずに発生した火が周りのものを巻き込んで拡大し、建物などに多くの損害を与える災害のことです。火事の原因は様々で、木材や紙など、可燃物(かねんぶつ)(=燃えるもの)が燃えることで発生する「普通(ふつう)火災(かさい)」や、石油などが引火することで起きる「油(あぶら)火災(かさい)」、変圧器などの電気設備から発生する「電気(でんき)火災(かさい)」の他、「金属(きんぞく)火災(かさい)」や「ガス火災(かさい)」など様々な種類があります。特に「油(あぶら)火災(かさい)」は水による消化が困難なため、注意が必要です。火が燃え移れば、一瞬にして被害を生む火事ですが、火が発生するメカニズムを理解すれば、事前に防ぐことが可能です。物が燃える時、多くの場合においては「可燃物」「酸素」「熱」の3要素が必要です。可燃物はコンロのガスやガソリン、私たちが身に着けている服など日常生活でよく使用するものが当てはまります。この可燃物に、空気中の酸素と熱が組み合わさることで火が発生する原因となります。
台風(たいふう)とは、雲のもととなる水蒸気(すいじょうき)が大量に集まり、大きくなりながら移動する現象のことで、台風が通過する場所には激しい風や雨、高波が発生し、毎年各地で大きな被害を与えています。台風の発生は、日本から遠い南にある「赤道(せきどう)」に近い地域であることが多いですが、これは水の温度が高く、雲の元となる水蒸気ができやすいことが理由として挙げられます。たくさんの水蒸気の発生によってできた雲は、渦巻き状となりながら、日本などの北に位置する地域に移動していきます。この時の雲の周りの風の強さが、1秒間に17m以上の速さのものを「台風」と呼びます(17m未満のものは「温帯(おんたい)低気圧(ていきあつ)」といいます)。
▲日本列島を通過する台風の図
津波は、プレートが動くことで起きる地震が起きた時に、海底が隆起(りゅうき)(=高く盛り上がること)することで大きな波が発生し沿岸地域に被害を与える災害のことです。古館地区は岩手県の中央部に位置し、沿岸から遠く離れた地域のため津波が起きる心配はありませんが、将来自分自身の家族や友人など、皆さんの周りにいる大切な人が津波の起きやすい地域に移住する可能性は十分にあります。そのような状況になった時に、命を守ることができるよう、事前に知識を持つことが大切です。
▲津波発生時のメカニズムを表す図(気象庁HPより)
ここまで、災害から身を守るために必要な知識として災害のメカニズムについて紹介してきました。ここからは、その知識を活用して考えられる防災について一緒に考えていきましょう。
一般的に、地震がいつ起きるかを確実に知ることは不可能と言われています。しかし、メカニズムの紹介で説明した通り、地震は断層が動いたときのずれによって発生するといわれています。つまり、その「断層(だんそう)」がある地域を知ることができれば、ある程度地震が起きる危険性を予測することができます。現在、日本では地震が起きる可能性があるとされる「活断層(かつだんそう)マップ」というものが多くの自治体で制作されています。また、地域・自治体によっては、地震が発生したときの危険度を表すハザードマップを発行しているところも多いです。地震による被害を未然に防ぐためにも、これらを確認し、自分の家から避難所(ひなんじょ)までのルートをあらかじめ家族と考えておくことが大切です。
水害発生時には、災害の危険度とそれに伴って行うべき行動を示す「防災気象情報(ぼうさいきしょうじょうほう)」と「警戒(けいかい)レベル」が発表されています。警戒レベルが高くなるほど災害により命を落とす確率は高くなるとされ、避難などのしかるべき行動が望まれます。しかし、この防災気象情報と警戒レベルは災害の激しさや種類によって細分化されており、事前に確認しておかなければ行動が遅れてしまう恐れがあります。それを防ぐためにも、普段からこれらの情報を知識として取り入れることが命を守ることに繋がります。さらに、自分の家がある場所が土砂災害や浸水の危険があるかどうかなど、立地の面から見つめなおしていくことも大切です。
火事を未然に防ぐために重宝されるものといえば、消化器(しょうかき)です。消化器は冷却と窒息作用によって、火が発生する3要素のうち、「熱」と「酸素」を奪い、火を消すことができます。実際に火災が発生した時に消化器を使ってうまく消化活動を行うためには、日々の消化器の点検と設置場所の確認が重要になってきます。点検箇所としては、「使用期限」や「キャップのゆるみ」、「ホースのつまり・ひび割れ」などが挙げられます。
台風は、雲のもととなる水蒸気(すいじょうき)が大量に集まることで生まれる気象ですが、高気圧(こうきあつ)の位置の関係から日本まで到達するのは夏(7~9月)に集中しています。気温が高い時期になると、風通しを良くするために窓を開けっぱなしにすることも多いですが、台風が通過する前には扉や雨戸にしっかりと閉じ、戸締りを徹底する必要があります。また、大雨が降る前には雨水をしっかり排水できるように側溝(そっこう)や排水口(すいこう)の掃除をしていくことが大切です。さらに、室内の安全対策として、停電(ていでん)・断水(だんすい)に備えて懐中電灯やラジオ、飲料水の確保を行うことなども考えられます
▲平成25年台風第26号による土砂災害(東京都大島町)
(気象庁HPより)
津波が起きる原因はプレートの運動によるものであると説明しましたが、このプレートがある位置、つまり海の深さが深ければ深いほど津波の速度が速くなります。また、津波の被害を受ける海岸の地形や地震の大きさなどの条件が重なることによって、その威力はさらに激しさを増すと言えるでしょう。もしこのような津波が起きた時に逃げ遅れてしまえば、生き残ることは難しいです。自らの命を守るためにも、あらかじめ家族や親戚と避難する場所を決めて、各自がすぐに逃げられるように準備をしておくことが何よりも大切です。警察庁の発表したデータによると、東日本大震災による犠牲者の死因の9割が、津波による溺死(できし)だったとされています。自分の、そして自分の大切な人を守るためにも、津波に備えた準備を必ず行わなければなりません。
気象庁「大雨や台風に備えて」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/ooametyphoon/index.html
総務省消防庁「令和元年台風19号及び前線による被害及び消防機関等の対応状況(第63報)」(令和2年1月確認)
https://www.fdma.go.jp/tags/893.html
一般財団法人消防防災科学センター「災害写真データベース」
http://www.saigaichousa-db-isad.jp/drsdb_photo/photoSearch.do
消防研究センター「ものはなぜ燃えるのか」
http://nrifd.fdma.go.jp/public_info/faq/combustion/index.html
能美防災株式会社「火災の種類と燃焼の原理」
https://www.nohmi.co.jp/product/personal/new_learn/about_disaster_prevention/combustion/index.html
関西電力「特集 台風について」
https://www.kepco.co.jp/brand/for_kids/teach/2016_06/index.html
産総研「活断層データベース」
https://gbank.gsj.jp/activefault/
気象庁「防災気象情報と警戒レベルの対応について」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/alertlevel.html
消防防災博物館「消化器の点検と設置場所」
https://www.bousaihaku.com/preparation/516/
気象庁「自分で行う災害への備え」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/ame_chuui/ame_chuui_p10.html
地震調査研究推進本部「地震キッズ探検隊・地震の謎にせまる!」
https://www.kids.jishin.go.jp/chosa02/chosa02_04.html
警察庁緊急災害警備本部 令和元年12月10日広報資料「平成23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震の警察措置と被害状況」
https://www.npa.go.jp/news/other/earthquake2011/pdf/higaijokyo.pdf